カノラホール-岡谷市文化会館(岡谷市・岡谷)大ホール 1446席
人口6万人を割り込んだ長野県岡谷市に不釣合い(失礼)なほど立派なホールです。「カノラ」とは「高らかに響き渡る」という意味のラテン語だそうで、その名のとおり、優れた音響を売り物にしています。このホールではステマネを務めたことが2回あり、ホールの音響について考えさせられる貴重な経験をしました。
ステリハ(ステージリハーサル)中に館内の席を歩いて、音響を確認してみました。2階席と3階席の音響は非常にすばらしく、豊かで透明感のある音がします。一方1階席は、前方のほうはステージから音が響いてきますが、後方に行くと急激に響きが貧弱になってしまいます。1階席では座席や床に反射して聞こえる音も相当量あるでしょうから、お客様が入るとさらに1階席の響きは少なくなるはずです。
カノラホールの構造の大きな特徴は、ホール内部が寸胴型で天井が非常に高いことです。そこで気がつきました。「オーチャードホールと同じだ」。オーチャードホールの1階席の響きの少なさは以前にも書いたとおりですが、3階席は良い響きがするという評もあります。私なりに考えた結論は、天井からの反射音が聴感を大きく左右しているのではないか、ということです。両ホールとも、上階の席では天井からの反射音によって響きが豊かに聞こえるが、1階席には天井からの反射音が十分に届いていないか、届いていたとしても聴感上は豊かな響きとして感じられないのではないかと思うのです。
一方、他に寸胴型で天井が高いホールといえば、上野の東京文化会館が真っ先に思い浮かびますが、東京文化では1階席でも豊かな響きを感じます。おそらく、プロセニアム上部にあるうねるような反響板と、プロセニアム左右の斜めの広い壁(東京文化は六角形で、左右ともその1辺にあたる壁)にはめ込まれたの大小様々な反響板が、1階席にも豊かな響きをもたらしているように思えるのです。
前回、「やまびこ男声合唱団」の演奏会でカノラホールでステマネをした際、ステリハ中に、客席に声が響いていないという指摘が技術系からあり、山台の位置をもっと前にしたらどうかという話になりました。ステマネとして悩みました。1階席の直接音の割合の多い席では、山台が前の方が良く聞こえるだろうが、お客様が入れば大して変わらないのではないか。逆に2階席と3階席では響きが損なわれてしまうのではないか。また、ステリハをある程度進めてしまった段階で立ち位置を変えれば、響きが変わって演奏者に違和感が生じてしまうのではないか。山台の組み換えにはかなりの時間が必要なので、貴重なステリハの時間が削られてしまうのではないか、等々。結局、最終的には指揮者の判断で、山台の位置を前方にずらすこととしましたが、ホールの残響とどのように付き合っていくか、良い経験となりました。