1年浪人して迎えた某国立大学の合格発表の日。頼んでもいないのに、東京在住の叔父が付き添いを申し出てきました。私立大学の合格発表は既に終わっていて、慶應に入学金を納めてありました。某国立大学に合格すればそこに入学、不合格ならば慶應に入学する手筈になっていました。
叔父曰く。「某大学に合格していたら、某大学らしく赤坂でお祝いしてやろう。不合格だったら、慶應らしく、新宿三井ビルの三井倶楽部でお祝いしよう」
お祝いの場所は三井倶楽部になりました。
その場でのこと。叔父も学生時代から長く合唱をやってきていて「君、大学でも合唱をやる気なら、慶應には『ワグネル・ソサィエティー男声合唱団』という素晴らしいクラブがある。ついこの間までやっていたNHKの大河ドラマ『徳川家康』のテーマ音楽もワグネルだし、ダーク・ダックスの4人もワグネル出身だ。僕は慶應出ではないからいつも羨ましく思っているのだが、日本一の合唱団といえばワグネルを挙げる人は相当いるはずだ。せっかく慶應に入るのだから、絶対ワグネルに入団するんだよ!」
田舎で混声合唱しか経験してこなかった私は「ワグネル」も畑中良輔先生の名前も存じ上げなかったのですが、叔父との別れ際には、もうワグネルに入団するような気になっていました。実はこの後、慶應の入学手続きの締切りギリギリまで、もう一度某国立大学に挑戦するかどうか、いろいろ揉めたのですが、結局最終的には慶應に行くことにしました。今から思えば、このとき叔父からワグネルの話を聞いていなかったら、違った選択をしていたかもしれません。