この年(1984)の夏の演奏旅行は、山形県鶴岡市及び周辺の高等学校の芸術鑑賞会と、宮城県気仙沼市に新設された東陵高等学校の芸術鑑賞会・兼・校歌お披露目会という組合せでした。当時は、このような、収支や集客の心配が全く無い演奏旅行を、通称「大名旅行」と呼んでいました。本来、1年生である私は演奏旅行に行くことは出来ないはずなのですが、50名で契約したところ48名しか都合がつかなかったとのことで、譜めくり要員を希望したところ幸運にも「大名旅行」に連れて行っていただけることになりました。
気仙沼で宿泊したのは、気仙沼湾岸から船で移動した「大島」にある、由緒正しそうな大きな旅館でした。圧巻だったのは夕食。大広間に並んだ全員の御膳にウニが1匹ずつ、箸が入るくらいの穴が開けられて並んでいて、それが全部元気に生きていて動いているのです。皿から出て、御膳の上から逃げ出し、畳の上を歩き回っている物もいて、皆で叫び声をあげながらウニを追い回します。山育ちの私は生ウニは初めてで、最初は触ることすら躊躇しましたが、覚悟を決めてウニを捕まえ、一口食べてみました。そのとき私の味覚に革命が起こりました。世の中にこんな美味しいものがあったのか!それ以来、あの時よりも美味しいウニに出会ったことはありません。
ウニ以外にも海の幸が満載の御膳は、海がない信州の田舎から出てきたばかりの私にとっては信じられないほど美味しいものばかりで、海の幸とはこれほど豊かなものなのかと、大満足を通り越して、天にも昇る気持ちでした。
東日本大震災で、あの旅館は大丈夫だったのでしょうか。あの賑わいと豊かな海の幸は少しでも戻ってきているのでしょうか。一刻も早い復興を願わずにはいられません。