今は閉場してしまった東京厚生年金会館は、ワセグリ(早稲田大学グリークラブ)と私達慶應ワグネルにとって、定期演奏会等の主要な会場として特別な意味を持っていました。その「聖地」でワセグリが演奏会を行う日は、新宿駅から靖国通り方面はいつも異様な光景が見られました。
辺り一帯がかすかにガラスビンが触れ合うチリンチリンという音に包まれているのです。
よく見ると、学生、社会人、男女カップル等を問わず、皆が皆、巡礼者のように、手にリポビタンDの10本入りケースをぶらさげて、東京厚生年金会館に向かって歩いているのです。
「火事場の馬鹿力」というものがあります。人は普段持っている力を100%出しているわけではないが、何かをきっかけにリミッターが外れると本来の力が出るのだという。ワセグリはこの「リミッター外し」を自ら発動させることができる稀有な合唱団です。その際に触媒となるのが本番前に飲む大量のリポビタンD。いったい一人何本飲むのでしょうか。そして、普段からウルサイ連中の声が三倍増しでホールに響き渡ります。ドーピングです。取り締まるべきです。良い子は絶対に真似しちゃだめよ。
このドーピングは毎回成功するわけではなくて、むしろ発動しないで終わってしまうことも多いのですが、成功したときの演奏会場は驚天動地の大変なことになります。恐るべし、ワセグリ!