慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団第150回を聴いて(Echotamaのブログ)

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【長文失礼】慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団の第150回定期演奏会を聴いてきました。

私は現在、ワグネルOBとしての役職をすべて降りていますので、ここには一人のOBとしての、きわめて個人的な感想のみを記します。文責はすべて私にあります。
また私の音楽経験も、合唱団の一団員としてのアマチュアに過ぎません。批評など身の程知らずではありますが、ご容赦いただければ幸いです。さらに私の現役時代は「恐竜世代」と呼ばれた部員100名の頃ですから、時代錯誤的なバイアスが混入している可能性についても、あらかじめご寛恕願います。

■ 現役の現状について

4年生7名、3年生13名、2年生13名、1年生27名の計60名。
昨年は30名弱が入団したはずの2年生が、半数に減っていることに驚きました。学業等との両立の難しさがあるとは聞いていましたが、「4年間続ける」ことのハードルの高さを改めて痛感しました。

しかし、1年生が半分近くを占める構成にも関わらず、ステージに響いたハーモニーは非常に豊かで嬉しく思いました。
ワグネルの伝統的な持ち味――合唱用に均質化した声ではなく、声楽的に正統に鍛えられた「良い声」が集まった上での響き――が、確かに継承されていると感じました。

1年生がわずか8ヶ月でここまで到達できるのは、先生方のご指導と上級生の導き、そして伝統の力のなせる業でしょう。かつての私たちの時代の「重厚さ」とは違う、より端麗辛口の爽やかな響きがありました。どちらが良いという問題ではなく、時代の変化を実感しました。

さて、聴きながら一つ考え込んでしまった点があります。
それは「詩と音楽の関係」です。

■ 第1ステージ:鈴木輝昭先生《満天の感情》

池澤夏樹先生の詩ということで、私は「透明で開放的な語り」を想像していました。しかしプログラムを見ると、古事記版画に触発されたテキストとのこと。池澤先生が、あの古事記の「世界生成の暴力と官能」へと思い切り踏み込んでいたことに驚きました。

その原初性に対し、鈴木輝昭先生の曲は精緻で理知的な、きわめて制御された現代音楽としての抽象美の「構造の枠」で応じています。

この両者は、どう考えても本来は「遠い」。敢えて言えばミスマッチとも感じられました。あるいは、敢えて対立させた上で止揚(アウフヘーベン)を目指したのでしょうか。

ワグネルは原始的な野性や、尖った現代音楽のど真ん中には立っていない団体です。レパートリー拡張としては興味深い試みですが、「詩と曲の世界観の距離」は否めませんでした。

■ 第3ステージ:平川加恵先生《一握の砂》

石川啄木の31文字に凝縮された和歌――その1首1首は、世界が丸ごと詰まっています。それを25首扱うということは、25種類の異なる世界を生み出すことに他なりません。

例えば、有名な歌、
「不来方のお城の草にねころびて空に吸われし十五の心」 は、柔らかな追憶・透明な幸福・痛みの影のない郷愁。
「やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」 は、故郷喪失・自己崩壊・叫び・絶唱・郷愁の残酷さそのもの。
両者は「郷愁」は共有していても、ベクトルは正反対です。

4首あれば4楽章の大ソナタすら書ける――と言えば大げさでしょうか(私は作曲はやりませんが)。

しかし平川先生の作品は、どれも美しく流麗で、構造として見事に整っています。作曲家としての才能の高さには全く疑いがありません。
ただしここでも、啄木が一首ごとに持つ「濃密な世界の差異」が構造の中に均質化されてしまっているという印象を持ちました。

■ そして……

私は、思い切って言えば、これは現代合唱・現代音楽における「作曲家の構造支配性」の問題だと感じます。
すなわち、詩を曲の構造に従属させる、テキストの広がりを、音響構造に回収する、世界を「作曲家自身の枠」に入れてしまうということです。
もちろん、それが作曲家の力量の証でもあるのですが、詩の世界が「枠」の中に収められてしまう危険を強く感じました。

一方で、2ステ「高野喜久雄+髙田三郎」や4ステのチャイコフスキー・アンコール曲の歌曲に触れると、そこには「詩的作品世界の核が、音楽の響きとして最大限に反響している」というロマン派的な喜びがありました。
私は40年前のワグネル現役時代、まさにこの世界に浸っていました。その「原体験」が、私の耳の基準を形作っていることは否めません。
しかし同時に――詩と曲が緊密に呼び合う世界は、いまも決して意味を失っていない。むしろ、その価値を改めて感じた演奏会でした。

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