確か昔のパンフレットで、木下保先生は「ワグネルはシューベルトが好きである。私も好きである」とお書きになっていた記憶があります。言に違わず、木下先生は慶應ワグネルでシューベルトを何回も取り上げていました。第30回東西四連と第106回定期演奏会で歌われたのは木下先生の最後のシューベルトです。
「Nachtgesang im Walde(森の夜の歌)」で声が破綻してしまったのとホルンが何とも口惜しいのですが、「Widerspruch(矛盾)」と「Im Gegenwärtigen Vergangenes(昔を今に)」は何度聴いても心地よい名演奏です。さらにアンコールでの「Die Nacht」は、木下先生の最後の定期演奏会での演奏となってしまいましたが、木下先生のシューベルトへの想いが凝縮されたような渾身の演奏です。端正で静謐、かつ溢れる憧憬と情熱。
このような素晴らしい演奏の録音が残っていて、いつでも聴けるのはまことにありがたいことです。