【2022年12月27日すみだトリフォニーホール】27日(火)は東京工業大学混声合唱団コール・クライネスの第57回定期演奏会を聴いた。2014年のベートーヴェン「荘厳ミサ曲」の演奏を聴いて脱帽だったのが一番の印象。できれば毎回聞きたいくらいなのだが早混の日程などと重なることが多くその後も2回ほど聞いている程度で今回は4年ぶりだった。それと言うのもテノールソロが東京いのりのとき合唱団で指導いただいている鏡先生。その先生からのご招待というので何を置いても聴かなければと思ったのだった。
この合唱団の女声はインカレなのだがコロナ禍にも拘らず総勢100名の陣容を維持しているのが何よりすごい。会場のすみだトリフォニーも恐らく千人を超える集客だったではないだろうか。
まず団歌が歌われたがひょっとして初めて聴く歌かも。1ステは学生指揮者により信長さんの初期の曲「春と修羅」。この難解な曲によくぞ挑んだという感じだった。聴き手の方はほとんどついていけなかった。そもそも「修羅」とは争いの世界の事だそうで、作詞の宮沢賢治は後に「つまらないからやめろ」というほど争いは好まなかったはずなのだが、この難解な詩は何を意味しているのか、などとは演奏を聴いているときには考えていられないのだ。つまり表面的な理解は全く意味がない深い内容らしいのだが、残念ながらそれを認識するものを持っていない。
2ステはウクライナの作曲家シルヴェストロフの「典礼聖歌」。初めて聴いたがアカペラの静かな中に深刻な祈りを織り込んだ美しい曲。息をのんでひきこまれて聴き惚れていた。言葉はウクライナ語らしく、曲の表記もロシア文字でよくわからない。SATのソリストも難儀したことだろう。しかし合唱団の美しいハーモニーと柔らかなソリストの声が溶け合って他にはないユニークな世界を作り出していたのが印象的だった。正教の典礼なのだと思うが最終曲はAve Mariaで深い祈りの雰囲気はよくわかった。
後半がメインステージでドヴォルザークの「ミサ曲 ニ長調」。多分50年近く前に歌ったことがあるのだが全く記憶を呼び起こすことができないほど忘れていた。ホールの大オルガンを伴奏に歌われるのを聴くのは初めてだったかもしれない。3階席は特によく響くのでこのような曲を聴くのにはうってつけだった。ミサ曲の以後は「Dona nobis pacem」と平和を願う祈りで終わる。この時期歌われる機会が多いのはやはり世界の一方で行われている戦争を意識せざるを得ないからだろう。
そしてアンコールで歌われたのが、木下牧子さんの「鷗」。珍しいことにオルガンの伴奏がついて壮大な世界が展開した。そしてハタと思いあたったのだった。「修羅」からウクライナの祈りへ、さらにラテン語のミサでは世界の平和への祈りへ、そして「今や自由は彼等のものだ」とウクライナの将来への激励的な宣言になっていた。一貫したテーマを持った演奏会は、あえてそれを説明しなくても気持ちの良いものだと感じた。
出演は、指揮 大谷研二、丹羽亮太(学生、1ステ)、ピアノ 山部陽子(1ステ)、ソリストS 櫻井愛子(2,3)、A 北条加奈(2,3)、T 鏡貴之(2,3)、B 松平敬(3)、オルガン 大竹くみの皆さん。
いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。