【2023年6月17日イイノホール】藤原歌劇団・日本オペラ協会のデビューコンサートに出かけてきました。もちろん「還暦の大型新人」平尾啓先輩の歌声を聴くためです。霞が関のイイノホールに馳せ参じました。
ご存じでない方のために申し上げると、平尾先輩は慶應ワグネルの先輩で、理工学部の大学院からキリンビールに奉職しましたが、定年前に早期退職し、プロ歌手への道を選んだのです。そして見事オーディションにより藤原歌劇団・日本オペラ協会の正会員として認められ、今回のデビューコンサートに至ったというわけです。
歌ったのは、1曲目はフィギュアスケートで有名なプッチーニ『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」。他の演奏者が若い中で、いきなり年長者がステージに出てきて、ノータイのタキシード姿だったので、もしかしたらステージマネージャーがトラブルシュートで出て来たかのように思ったお客様もいたのでは?
しかし歌い始めると会場の雰囲気は一変。耳馴染みのある曲であることもあり、皆様ご存じのクライマックスのところをどう歌いきるのか、期待が膨らみました。もちろん難なく歌い切り、会場は平尾先輩の力強い声で満たされました。歌い終わった後はもちろんブラボーの嵐。会場中がどよめいて興奮冷めやらぬ様子でした。
2回目の登場はコンサートのフィナーレ。ヴェルディ『運命の力』の二重唱「アルヴァーロ、隠れても無駄だ」。平尾先輩はアルヴァーロ役。気品と陰翳とドラマティックな声を備えていなければならない難役。昔はマリオ・デル・モナコの当たり役です。最近はテノール・ドラマティコが世界的に人材難になっているので、平尾先輩は貴重な存在かも。そして相方カルロが誰かと思いきや、なんと藤原歌劇団総監督の折江忠道先生!いきなり新人と総監督がフィナーレでデュエットとは、平尾先輩の実力が認められているという以外の何物でもありません。
もちろん、素晴らしい声は折り紙付き。平尾先輩も、聖職者になった身のアルヴァーロが、侮蔑を受けてついに決闘を承諾するに至るまでの心の揺れ動きを、存分に表現しきった名歌唱でした。会場中にお二人の世界が広がり、舞台セットも無くピアノ伴奏なのに、存分に堪能させていただきました。
そういえば折江先生も畑中良輔先生門下ですね。兄弟弟子の共演は、きっと天国で畑中先生が喜んでいることでしょう。
アリアだけでなく、本式のオペラで平尾先輩の歌唱を聴きたいという欲求が高まりました、心から期待しております。