慶應義塾のモダニズム建築(Echotamaのブログ)

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慶應義塾のシンボルの建築物といえば、真っ先に挙がるのは慶應義塾図書館・旧館(重要文化財)だと思います。しかしモダニズム建築の宝庫でもあることは余り知られていないように思います。モダニズム建築とは、19世紀以前の様式建築(歴史的な意匠や装飾)を否定し、機能主義、合理主義を追求し、工業生産による材料(鉄・コンクリート、ガラス)を前面に出した20世紀以降の建築のことです。慶應のキャンパスに入って建物を見ていただくと、装飾が非常に少ないことに気がつかれると思います。

建築は思想を表しています。図書館・旧館はゴシック様式のレンガ造りの洋風建築で、明治の日本の近代化において慶應義塾が果たした役割を象徴しているのは疑いのないところです。

一方で戦後に建てられた最先端のモダニズム建築は、機能主義、合理主義が徹底され、虚飾や権威を否定し「実学」を重んじた福澤諭吉先生の精神が反映されているのは明らかです。いずれにせよ、福澤先生の仰った建学の精神「全社会の先導者たらんことを欲する」という思想が見事に具現化されています。

具体的な設計者(敬称略)は槇文彦、谷口吉郎・谷口吉生親子が代表的で、いずれもモダニズム建築の巨匠です。この三人は家族ぐるみの付き合いもあって、一家が皆幼稚舎から慶應(そういう一家が慶應にはよくいます)の槇家の本郷の家に出入りしていた谷口吉郎(東京帝国大学卒)が慶應の建築物の設計を依頼され、合計26件もの案件を引き受けたといいます。槇文彦は建築学科がなかった慶應義塾大学工学部予科を中退し、東京大学工学部建築学科卒、クランブルック美術学院およびハーバード大学デザイン大学院修士課程修了。モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエに比して「ミース以上にミース」と言われるモダニズム建築の申し子のような方です。谷口吉生は慶應義塾大学工学部機械工学科卒、ハーバード大学建築学科大学院修了。日本の大学の建築学科を卒業していない一級建築士の第一号だそうです。

傑作は数々ありますが、私が最も傑作だと思うのはSFC(湘南藤沢キャンパス)です。全体設計は槇文彦。敷地内にモダニズム建築の校舎が点在し、行き交う教員・学生が交差することで一つの大きなコミュニティが構成されています。学問のセクショナリズムの垣根を無くし、画一的・単線的教育システムからの脱却を掲げ、科学とテクノロジー、デザインを駆使し、柔軟に人文・社会科学と融合させ、美術・芸術分野まで幅広い複合領域を学び研究するという理想が、建築面でも具現化されているのです。また、その中にある慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部は谷口吉生の設計で、まるで街のように広場や路地があり、休み時間に先生と生徒が話し合ったり、友達同士が出会ったり、学校の中で楽しい空間、いろいろな出会いの場が作られています。これも「未来の先導者」を育てるという理想の具現化に他なりません。

「全社会の先導者」「未来の先導者」であるために最も必要なのはクリエイティビティです。慶應義塾の建築群は過去のクリエイティビティの証でもあり、未来のクリエイターを育てる場でもあるのです。現在日本が先進国のなかで後れを取っているのはまさにクリエイティビティ、インフォメーションテクノロジー、インキュベーション、個性と多様性の尊重、国際化だと私は考えています。福澤先生が唱えた慶應義塾の建学の精神は今でも色あせることはありません。「先導者」を目指す者は慶應義塾に集まれと呼びかけたい。偏差値や受験テクニックなどクソ食らえです。受験生はキャンパスの中に足を踏み入れて、諸建築をぜひ見てください。

もちろん例えば早稲田なら早稲田の建学の精神があり、目指す人間像は違って良いし、また違わなければいけません。そして競い合わなければなりません。それが私学です。その多様性が日本を発展させていきます。世界のトップ5大学と言われるケンブリッジ大学、オックスフォード大学、ハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学は全て私学です。慶應義塾はまだまだ及びませんが、「先導者」たらんことを目指し、伸びしろは十分にあると思うのです。