「バブル世代は経営から去れ」暴論ですが、私もバブル世代ということでお許し願いたいと思います。
日本銀行は、デフレ脱却のために、2013年1月に「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。すなわちインフレターゲットの設定による金融緩和に根本的に政策変更したのです。異次元の貨幣供給の拡大と実質マイナス金利により、本来ならインフレになり、お金を借りたくなり、需要が増える(景気が良くなる)はずですが、効果はそれほど上がっていません。なぜなのか考えてみました。
6年前の内閣府の資料ですが、40歳~59歳の起業家の数が大きく落ち込んでいます。現在なら46歳~65歳。目安としては1957年~1976年生まれあたりということになります。(以下の資料の4ページ目)
https://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/team/kigyo/pdf/h28_0121_kigyo01_ss2.pdf
バブルへまっしぐらの頃からリーマンショックの就職氷河期までの間に就職した世代。この世代は明らかにベンチャー精神を欠いているのです。バブルがはじけて「構造改革」「規制に守られたゾンビ企業はつぶす」とか言われて、デフレの中で膨らみ続ける借金を返すことが必至だった暗黒時代を長く過ごしたのです。この「デフレの幻影」に囚われた世代が今、経営者になり、要職についているのです。どんなに金利を下げても、インフレにより実質金利が下がると見込まれても、新規投資には慎重で、いつまでも総需要が増えない(景気が良くならない)のも当然かもしれません。
ご参考までに、5月2日現在の日本企業の時価総額20傑を載せます。時価総額は経営者に渡される通知票です。いかにマーケットがベンチャー精神を高く評価しているのかお判りいただけると思います。例えば昔は優良企業の代表だった金融関係が三菱UFJのみで、東京海上日動すら影も形もありません。また、日本の伝統的慣行の「入社年次順に経営者を順送りで選んでいく」会社はわずかです。残念で理不尽なことですが、ベンチャー精神を欠いている世代は去れ、とマーケットは言い渡しているのです。ちなみに創業者の生年は滝崎武光(キーエンス)1945年、孫正義(ソフトバンク)1957年、柳井正(ファストリ)1949年です。上記の暗黒時代の創業者で思いつくのは三木谷浩史(楽天)1965年生まれくらいですが、時価総額1,453,804百万円109位です。(敬称略)
1位 トヨタ 36,349,792百万円
2位 ソニーG 14,073,672百万円
3位 NTT 13,894,040百万円
4位 キーエンス 12,705,169百万円
5位 三菱UFJ 10,043,844百万円
6位 KDDI 9,963,272百万円
7位 ソフトバンクグループ 9,114,425百万円
8位 東エレク 8,613,585百万円
9位 リクルート 8,099,905百万円
10位 任天堂 7,597,336百万円
11位 信越化 7,456,180百万円
12位 ソフトバンク 7,178,324百万円
13位 オリエンタルランド 7,075,592百万円
14位 三菱商 6,532,725百万円
15位 中外薬 6,499,632百万円
16位 ファストリ 6,438,670百万円
17位 第一三共 6,417,424百万円
18位 日立 6,274,162百万円
19位 ホンダ 6,216,822百万円
20位 伊藤忠 6,206,427百万円
本来であれば、株主は経営者に対して「もっと金を借りて投資して株主利益を上げろ」と言うでしょう。それができない会社は株価が下がります。円安も進んでいますから、容易に外資に買われて、「物言う株主」から経営陣の刷新を求められるかもしれません。「構造改革」を無理やりやらなくても、マーケットが自然に動きます。そもそも、東証一部の会社の時価総額を全部合計しても、2020年にGAFAMたった5社の合計に既に追い越されていますから、日本のバブル崩壊後の経済政策の失政による敗戦は明らかなのです。
いっそのこと就職氷河期以降にハングリーに這い上がってきた1977年以降生まれの若い経営者の抜擢を考えるのはいかがでしょう。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2022」のベストテンを見て、生年を調べてみたら、ぴったり就職氷河期以降の若い世代にはまっています。また、三菱UFJのような伝統的企業でも、37歳(1984年あたりの生まれ)の女性支店長を抜擢するなどの取り組みが実際に行なわれています。
1位 宮田昇始(SmartHR)1984年
2位 加藤勇志郎(キャディ)1991年
3位 稲田武夫(アンドパッド)1984年
4位 石山 洸(エクサウィザーズ)1982年
5位 稲田大輔(atama plus)1981年
6位 橋本 舜(ベースフード)1988年
7位 家入一真(CAMPFIRE)1978年
8位 赤川隼一(ミラティブ)1983年
9位 十河宏輔(AnyMind Group)1987年
10位 米良はるか(READYFOR)1987年
さて、それでは私たちバブルの後始末に追われた世代はどうしたらいいのでしょうか。悔しいですが、若い世代の足を引っ張らないように潔く去ることも考えなければならないでしょう。そうでなければ、熟年ベンチャーに挑戦するしかない。会社に寄りかからず、自分自身が価値を生み出す。私たちの世代にできるでしょうか。
「バブル世代は経営から去れ」は暴論かと思いましたが、既に昨年、内閣官房の経済成長戦略会議で出された提言書に「順送りの登用はやめて、若者と女性に経営を譲れ」という内容が盛り込まれていました。私が遅れていただけだったようです。
研究会の委員は以下の方々です。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/PJT/dai9/siryou1.pdf
提言書はこちら↓
企業組織の変革に関する研究会 報告書
~生え抜き主義からダイバーシティ登用主義へ~
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/PJT/dai9/siryou2.pdf
それで、我々世代はどうしろというのか、というと「べテランの活躍 ~ベテランこそが企業変革のキーパーソン~」とはなっていますが、内容は「リカレント教育を始めとする教育投資・人材投資により個人の能力を伸ばし、活躍の場を広げる」となっていて、中身を読むと、
○新卒一括採用・年功序列で40年間あまり考え方が変わらない人材ばかりの企業は通用しない
○新たなスキルの習得や学びの機会を企業が提供する
○時代や企業文化の変化に合わせて自分の思考・態度を変化させる
○個社固有のスキルではなく、他社でも通用するスキルを身につけさせる
○社員の兼業・副業、転職、起業を応援すべき
だそうです。要するに今のままではダメで不要だから、退場して再教育で変わって帰ってくるか、そのまま帰ってこなくてもいいよ、ということですね。反論・選択の余地が全くないので、受け入れるしかないでしょう。