参議院選挙にむけて各政党の公約を調べていたら、ちょっと驚いてしまったのです。
日本共産党が「最低賃金1500円」を以前から唱えていたのは知っていました。しかし、立憲民主党も、6月3日の会見で「時給1500円を将来的な目標に最低賃金の段階的な引き上げ」と発表したのを見た時には目を疑いました。
現在(令和3年10月1日以降)の東京都の最低賃金は1041円です。フルタイムで働いても1日8328円、年間220日として月15万円余り、年183万円余り。とても低い金額だとは思います。しかも最低賃金程度で働いている労働者は3~500万人もいると考えられており、金額を上げたくなる気持ちも十分理解できます。
しかしながら、あらゆる価格は需要と供給によって市場において決定されるということを忘れてはいけません。経済学のイロハのイです。賃金についても例外ではなく、労働市場によって決定されます。ここに最低賃金という価格統制を設定することは、労働者の生活の質の改善にはなりますが、賃金を下げることができないことから、労働者の需要が下がります。すなわち理論上は雇用主は労働者を減らすため雇い止めを始め失業者を生むという事態が生じます。
人が減ったら、その分、残った労働者に「雇い止めした人の分まで働いてくれ」という事態になるのは自明の理です。すなわち、労働強化が始まります。結果、労働生産性と賃金は正比例することが知られています。
ネットで論文を探していたら、まさに立憲民主党の支持団体である連合総研の月刊DIO,2010年11月号の「最低賃金の引き上げは雇用を減らすか」と題した論文を見つけました。執筆者は慶應義塾大学先導研究センター研究員の四方理人氏(現:関西学院大学准教授)です。
https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio254-3.pdf
その中では「最低賃金の引き上げにより雇用が減少したかどうかについては、実証研究において見解が分かれている」と記されており、「最低賃金の引き上げは必ずしも雇用の減少を生むものではない」という実証研究の例も紹介されていますが、「アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各国における最低賃金と雇用の関係についての約100本に及ぶ論文のレビューを行い、最低賃金の引き上げが雇用を減少させると結論付けた論文が多数」であったという研究や、日本でも「女性については最低賃金が高くなると、31~ 59歳での雇用量が減少する」という研究結果が紹介されており、最低賃金の上昇が雇い止めを始め失業者を生むという理論と矛盾しない実証結果も示されているのです。
現在(2022年4月)の日本の完全失業率は2.5%(総務省統計局)です。労働組合の力が強くストが頻発するフランスの2020年の完全失業率は8.0%(ILO)です。単純な比較はできないにしろ、日本はそれなりに失業率が低く収まっており、低い賃金でも労働契約が成り立っていると言えます。最低賃金を上げることは、ただ「上げろ!」と主張するだけでは済まない事態になることがご理解いただけたかと思います。
意地悪な言い方をすれば、「最低賃金を上げろ」と主張することは、「支持母体(組合等)に属していない非正規雇用の社員が雇い止めになっても構わない」「賃金が上がる分、労働強化は受け入れる」と宣言していることに他なりません。そうしたいですか?
賃金も上がり、失業者も生まないという選択肢は一つしかありません。経済成長です。牽引するのは個人消費と設備投資と財政政策。個人消費の拡大がすぐには見込めない中、まず頼れるのは設備投資(企業の成長)です。生産性の低い社員を再教育して生産性の高い業務へ再配置する教育プラットフォームの整備、そのための設備投資と、イノベーションと、新たな分野の開拓・参入が必要だと私は考えています。それでこそ真の賃上げが可能となるのです。
これらの成長戦略の提案を抜きに、ただ賃上げだけを主張すると、また「批判だけしかしない」と言われてしまいますよ。