経済の話で失礼します。この頃、急に物価が上がってきたと思いませんか?日本経済新聞社が22日、国内のエコノミスト5人にアンケート調査したところ、4月の消費者物価上昇率の予測は平均2.0%だったそうです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA226UJ0S2A420C2000000/
アベノミクスにおいて、日本銀行がデフレ脱却のために「インフレターゲット」理論を採用し、黒田東彦総裁の下で「異次元」の量的緩和策とマイナス金利をとってきたことは皆さまご存じだと思います。一部の経済学者、朝日新聞、毎日新聞、東洋経済などが批判する中で、「インフレターゲット」論者の急先鋒である岩田規久男学習院大学教授、若田部昌澄早稲田大学教授を日銀副総裁に登用し、旗幟を鮮明にしたことは評価されるべきだと思います。
「インフレターゲット」理論は、乱暴に言えば、経済学の教科書通りの理論で、あらゆる財の価格は需要と供給のみによって決まり、貨幣についても例外ではないと考えるものです。すなわち貨幣の供給を増やす緩和策をとれば相対的に物価が上がり、物価が上がりすぎれば貨幣の供給を減らす金融引き締め策をとることによって、一定の物価上昇率を維持することができるという考えです。この理論はアメリカの中央銀行にあたるFRBをはじめ、各国で採用されています。
日本はバブル崩壊後にデフレに悩まされてきました。デフレであれば、お金を使わずタンス貯金しておいた方が後々価値が出ることになり、誰も投資したくなくなります。黒田総裁は「2%程度の物価上昇率を目指す」と宣言しました。しかしながら物価は思うように上がらず、実質デフレから脱却できない状況が続いてきました。
しかしながら、ロシアのウクライナ侵攻によって、石油・天然ガス、小麦(ウクライナは世界有数の小麦生産国)という基本的な財の価格が急騰したことにより、世界的な物価高が急激に生じています。「インフレターゲット」理論を採用する各国の中央銀行は貨幣の供給を減らす金融引き締め策をとりはじめようとしています。貨幣の供給を減らすと金利が上がります(仕組みを説明すると長くなるので省きます)。高い金利の通貨の方が相対的に価値が高くなります。その結果、現在急激に円安が進んでおり、基本的な財を輸入に頼る日本においては物価高はさらに急激に進んでいます。
皮肉なことに「2%程度の物価上昇率を目指す」というターゲットはようやく達成されそうになっているのですが、円安が進むということは「他国の金利が上がっても、日本の金利は当面上がることはない」と、日本は経済の教科書通りには動かないと世界のマーケットが判断しているということに他ならないでしょうか。おそらく考えられるのは夏の参院選です。
「遣唐使」(何でも『検討し』と答弁するので)と揶揄されている岸田首相が、参院選の前に、金融の引き締めを選択する可能性は低いと思います。自民党のバックの経済界が金利上昇を歓迎するわけがないからです。日銀も、中央銀行の中立性はありつつも、役員人事が国会の同意人事である以上、政権に忖度してしまうかもしれません(黒田総裁がそうだとは思いたくないですが…)。
心配なのは、手をこまねいているうちに2%を軽々と超えて物価が上昇し続けてしまう事態です。物価上昇率以上に賃金が上昇すれば良いのですが、賃金は労働生産性に比例しますから、コロナで在宅勤務等、働き方に革命的な変化が起こっても日本の労働生産性が上昇した様子はありませんし、物価高のペースが非常に早いこともあり、物価高が家計に影響してしまう可能性が非常に高いように思います。
物価高により岸田政権の支持率が下がる前に、参院選を乗り越えられるのか、自民党の皆さんは物価上昇率とにらめっこして「検討して」いるところだと思います。私は、コロナ下で厳しい経営を強いられている経済界の反対を押し切ってでも、早急に金融引き締め策に舵をきらないと国民へのダメージが大きいと考えています。目前の選挙より、まず国民を守るのが政治の仕事だと思うのですが、いかがでしょうか。また、自民党が動かないのであれば、参院選で金融引き締め策を政策に掲げる政党が出てくるのか、注視したいと考えています。
ただし、物価が「安定的に」2%上昇していると判断されないのであれば話は別です。金融引き締めを行なうと、ただでさえ弱い企業の投資意欲が一層削がれてしまう危険性があります。経済成長には企業の投資に頼らざるを得ない以上、安易な引き締めも避けなければなりません。日銀は難しい舵取りを迫られると思いますが、ぜひ乗り切ってほしいと思います。