「桜花」に心を乱されている間に、大事な偉人の命日を忘れていました。アメリカの黒人※解放運動家、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、いわゆる「キング牧師」です。1968年4月4日に凶弾に斃れました。かように『桜の森の満開の下』(by坂口安吾)では人は正気を失うのです。
※現在は黒人(Negro)という言葉は避けられ、アフリカ系アメリカ人(African-American)という言葉が一般的に使用されるようになっていますが、キング牧師の演説ではNegroが使われていますので、以下すべて黒人と記します。
学校の英語の教科書で、キング牧師の演説「I Have a Dream」を読んだとき、感動でリアルに体が震えました。今も「I Have a Dream」とつぶやいただけで、体に熱いものがこみあげてきます。平等・非暴力・自由・民主主義について、これほど簡潔明瞭に、熱く語られた演説があるでしょうか。驚くべきは、この演説の後半の感動的なくだり「I Have a Dream」以後は即興だというのです。スピーチライターがいたわけではありません。キング牧師に関しては醜聞も取り沙汰されており、支持しない方もいます。それでもキング牧師が自分の言葉で「I Have a Dream」と語った事実は変わることはありません。
会社の出張でワシントンDCのFCCに行ったとき、空き時間を利用してわざわざリンカーン記念堂まで行きました。そして階段を登りました。そしてそこに立ち、下に広がる公園を見下ろしました。「まさにここでキング牧師が演説したのだ」どうしても、どうしてもそこまで行きたかった。どうしても、どうしてもそこに立ちたかったのです。
そしてキング牧師の夢は、まだ終わることなく希求されています。日本にも平等・非暴力・自由・民主主義はあるのでしょうか。憲法には書いてありますが、本当にあるのでしょうか。
演説「I Have a Dream」の最後は、有名な黒人霊歌「Free at last」の歌詞の引用で締めくくられています。アメリカ大使館のサイトに掲載されている日本語訳では、「なつかしい黒人霊歌を歌うことのできる日の到来を早めることができるだろう」となっていますが、残念、なぜか原文の「words」が抜けています。「なつかしい黒人霊歌『の言葉』を歌うことのできる日の到来を早めることができるだろう」が正解だと思われます。合唱関係者の方はみんなご存じでしょうが、黒人霊歌は奴隷としての過酷な労働の中から生まれたものです。黒人霊歌の「Free at last」とは「死んだら自由になる」という意味です。すなわち、死んでからではなく、生きているうちに「Free at last」という「言葉」を歌おう、「Free at last(ついに自由になった)」と言える日の到来を早めよう、とキング牧師は言いたかったのです。
黒人たちが祈りを込めて、死後の救済のために歌った黒人霊歌は、のちにジャズになり、ロックになりました。様々に発展しながら、ポピュラー音楽として全世界の人々に親しまれる文化の一大潮流となりました。死んでからではなく、生きているうちに自由になる。どんなに形を変えても、そこには救済と自由を求めた黒人のスピリットが受け継がれているはずです。あらゆるロックは自由を歌い上げる歌なのです。ジョン・レノンも、ミスチルの桜井和寿も、ヒゲダンの藤原聡も、あらゆるミュージシャンが同意してくれるに違いありません。
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