久しぶりに政治の話題で超長文失礼します。
統一地方選挙に伴い、本日、私の地元の八王子市でも市議会議員選挙が公示されました。選挙運動用自動車(選挙カー)が大音量で候補者の名前を連呼していきます。私の妻や娘はうんざり顔で「選挙カーがうるさい」「名前ばかり叫んで何になるの?」「『選挙カーは使わない』という候補はいないかしら」「選挙カーを規制する法律ができてほしい」と言っています。おそらく多数の方が同じような意見をお持ちかと思います。
ネットで見つけた昨年の参議院選挙に際しての中日新聞の調査でも、連呼行為のイメージについてアンケートしたところ、回答した1579人のうち、「マイナス」が54%(852人)を占め、「プラス」はわずか7%(110人)。ニュースソース「中日新聞」2022年6月27日<ユースク>選挙カーなぜ連呼する?アンケートで印象「マイナス」多数→https://www.chunichi.co.jp/article/496860
実は名前だけの連呼になるのには理由があります。公選法141条の三で走行中の選挙カーからの選挙運動は規制されていて(街頭で止まっていたらOK)、連呼行為のみ例外とされている「謎の条文」が存在しているのです。したがって、時々公約を交えて走っているウグイス嬢さんがいますが、公選法違反なのですよ。連呼だけしかできないのです。
しかも選挙カーの借り入れ等、燃料代、運転手の雇用については、候補者の得票数が有効得票の総数 (議会議員選挙では議員の定数をもって有効投票の総数を除して得た数)の10分の1以上であれば、届出のあったもので上限金額以内についての費用が負担されます。つまり、公費負担=税金で賄われているのです。「意味わかんない」と思われるのも当然かもしれません。
しかし選挙プランナー(裏方のプロ)に言わせれば全く逆です。長くなりますが引用します。ニュースソース「オピニオン」2016年7月8日 なぜ選挙カーは候補者の名前を連呼するのか?『残念な政治家を選ばない技術』著者、松田馨氏インタビュー→https://synodos.jp/opinion/info/17461/
「選挙カーと得票の関係について、調査を分析したところ『回数多く選挙カーで名前を連呼した候補者は、その地区での得票は増える』傾向があると指摘されています。これは現場の感覚から言っても、うなずけるものです。選挙カーで名前を連呼することで知名度は上がりますし、投票にもつながります。
選挙カーの声が聞こえるということは、候補者がその地域を周っていることの証です。むしろ、『選挙カーが来てないぞ! うちの票はいらないのか?』と電話で怒られたことが何度もあります。『ウグイス嬢が早口で聞こえなかった』とか『もっとゆっくり周ればいいのに』とお叱りを受けることも。小さな街の有権者などは、政治家に忘れられていると感じることに敏感ですし、『こんな場所にも来てくれた』と喜んでくれる方もいるのです。
ですから、現場の実感としては、選挙カーは嫌われていない。むしろ好かれています。でも、選挙にあまり関わっていなかったり、関心の薄い人からすると、『選挙カーはうるさい』と思われてしまうのでしょう。
実際、『選挙カーを使いません』と宣言している候補者もいますが、『あの人は選挙カーを使っていないから』投票する人はかなり少ないでしょう。それに、『選挙カーがうるさいから投票はしない』と言う人は、そもそも投票しない人なので、選挙結果に影響を及ぼしません。」にべもありません。
実際に連呼の効果を認めた研究結果もありました。大阪大大学院の三浦麻子教授(社会心理学)らは2017年、選挙カーによる候補者名の連呼は「候補者の好感度の向上にはつながらないが、一定の集票効果がある」との論文を発表したとのこと。ニュースソースは上記の中日新聞→https://www.chunichi.co.jp/article/496860
この論文によると、候補者名を連呼した選挙カーが通った場所に自宅が近い人ほど、その候補者に投票する傾向が高く、好感度との相関性はみられなかったそうです。選挙カーをくまなく走らせることは必要不可欠な重要事項であるわけです。
言えることは、日本の有権者の一定数は「選挙カーが連呼した名前を聞いた」というだけの理由で、政策の中身はさておき、投票してしまうわけです。もしかすると、嫌悪感を持っていたとしても投票してしまっているかもしれません。「選挙カーがうるさかった」などと言って投票に行かなかった人たちの民意はもちろん関係ありません。名前が耳に入っただけの「選良」たちだけが政治を動かしている。要は名前が売れれば良い。これが実態です。時々人間としていかがなものかというレベルの「選良」もいらっしゃいますが、まぎれもなくその人は有権者に選ばれたのです。しかしその選ばれた理由はいかがなものなのでしょうか。日本国民として恥ずかしく思うことも多々あります。
過去を振り返ればナチスの宣伝大臣だったゲッべルスの例があります。ラジオ放送でヒトラーの演説を放送しまくった。名前が売れることは何でもやった。そしてナチスは合法的・民主的に政権を奪取していき、独裁にまでたどり着きました。選挙カーで名前を聞いたかどうかだけで投票先を決めてしまう日本の有権者が、ナチスドイツのようにならないと言えるでしょうか?
もちろん選挙カーの規制は、日本国憲法において国民の思想、信条、表現の自由が保障されているため、選挙運動において規制することは適当ではないと考えます。しかしながら、選挙カー以外でも、もっと関心を持って、まずは選挙に行くことが必要だと思います。前回2019年の統一地方選挙の投票率は47.5%。有権者の半分以上が投票に行っていないのです。そして、名前を聞いたかどうかなどという薄弱な理由でなく、きちんと政策の中身で候補者を選びたいと思うのです。