【2023年1月10日渋谷区文化総合センター大和田さくらホール】東京ウィメンズ・コーラル・ソサエティの作曲家個展シリーズvol.3三善晃 を聴いた。この演奏会はもともと昨年7月22日に計画されていたのだが、複数のコロナ感染者の発生により中止となっていた。当初の公演日は金曜日で私は合唱団の練習があって聴けないので残念に思っていたのだが、リベンジ公演は10日の火曜日となり、しかも当初の東京文化会館小ホールから渋谷区文化総合センター大和田さくらホールに変わって、新たに売り出されたチケットを入手した。
この合唱団は岸信介さんの指導している合唱団による「舫の会」からよりクオリティの高い女声合唱を目指して結成されたという。既に11年経過して2019年から始めた個展シリーズは萩原英彦、木下牧子に続く3回目である。個展というと複数の団体が入れ替わりで同じ作曲家の作品を演奏する場合が多いが、この会のように一団体で全ステージをこなすと、出演者もそれだけ深く作曲家のいろいろな方面を知ることになるし、聴く方にとっても同じレベルの演奏で各作品を聴くことができるから、非常に勉強になると思う。
1ステは「三つの抒情」。これまで何度も聴いてきた曲なので、それだけ多くの合唱団が演奏しているわけだ。しかし今回はかなり力が入っていて三善さんがこうやってほしいと思ったところをやりすぎではないかと思うほどに強調した演奏であった。しかしそれはほかの演奏と比べた場合の事で、本来このような表現が求められていたのだ、ともいえる。岸さんは合唱連盟理事長の重責から逃れて十分にその思うところを表現したかったのだろう。これまでにない強い印象を残した。合唱団もシニア層の女声合唱としてはダイナミックレンジが広く、その分表現に幅がある。自在に楽譜を歌いあげた感じで気持ちよかった。
2ステは舫の会が2001年に委嘱初演した「四つの愛のかたち」。初めて聴く曲だったのと、1ステより聞き取りにくい内容の詩でわからない所もあったが、言葉をしっかり伝えようという気持ちはよく伝わった。
3ステは本来児童合唱のための作品なのだろう。「こどものための合唱曲集『光のとおりみち』」よりの5曲。楽しい内容だが音楽としてのレベルはさすが三善さん。中に「音あそび」という曲が三善さん本人の作詞。音楽教室でのやり取りをそのまま歌にしたような内容で笑いを誘っていた。
4ステは北原白秋の詩による「五つの唄」。これも女声合唱としては初めて聴いたが、知っている詩があり興味深かった。ただ、ところどころ白秋独特のわかりにくい表現があり、音として聴いた時に「え?何を言ったの?」というところがあった。プログラムノートに2001年に寄せられた三善さん本人の文章が転載されていて「日本語を『歌う音楽』にするのに、私には欠かせないことがあって、それはその日本語(詩)に『音楽』が内在していることだ。」とあった。それを感じ取った時初めて三善さんの曲が生れたのだろう。私のような凡人は、音楽から詩を感じるような聴き方をしていて、詩から音楽を感じることは出来ないのだが。
指揮は岸信介さん、ピアノは法嶋晶子さん。
蛇足だが、ネットから購入した指定席は1回のど真ん中。しかもほかの所はほぼビッシリ埋まっているのに私の左右は空席という環境で不思議な感覚だった。またこの日(10日)は三善晃さんの誕生日だったそうで、御存命ならば90歳だったはず、と聞き改めて若くして亡くなられた(?)のが残念だと思った。
いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。