【2022年12月2日旧東京音楽学校奏楽堂】2日の金曜日は練習があるので普通ならば演奏会には行けないのだが、午後の演奏会ということなのでお誘いに乗って行ったのが、改装なった旧東京音楽学校奏楽堂での「CHOIR&ORCHESTRA~バロック音楽の楽しみ~」という演奏会。旧奏楽堂には何度か来たことがあるが改装後は初めてで、中を見たいという気持ちもあって出かけることにした。演目はバッハとヘンデル。同年生まれの二大巨匠の作品を同じスタイルで演奏するという興味深い試み。そして迂闊にもその日まで気が付かなかったが、バッハは前日と同じMagnificatというプログラム。奏楽堂ではどんな響きになるのだろうか。
奏楽堂の舞台は戦前からのものなのでさほど広くはない。しかしさすがは音楽学校で装備は一通り整っている。客席前方には不思議な空間があるのだがいわゆるオーケストラピット。歌劇上演の際には管弦楽がここに陣取るわけだ。そして舞台奥にはわが国最古のパイプオルガン。これは音楽学校時代にはなかったのだが、大正年間に数年だけ稼働した南葵楽堂のために当時の紀州藩の殿様徳川頼貞氏が特注して作らせたもの。関東大震災で音楽堂が使えなくなり、しばらく退蔵されていたものをここに引き取ったのだと聞いている。徳川頼貞氏は大の音楽ファンで徳島で第九が初演されると聞けばわざわざ駆けつけたりもしているし、彼が欧州で落札したカミングスコレクションは南葵楽堂で一般公開されていた後、一時は古書店に並んだこともあったらしいが買い戻されて、慶應義塾が預かり、今では和歌山県立図書館に落ち着いた。この中にはバッハの自筆譜等もあるそうで、その他まだ演奏されていない曲もあるらしい。また戦後は参議院議員を務め、フィリピンのマニラにあった竹製のパイプオルガンの復元修理にも尽力したという。話がそれたが奏楽堂のオルガンが無事だったのを確認できたのはうれしかった。
さて演奏会だが、声楽10名(1名は交替)とオケは弦楽器8名とオルガンのみで管楽器は省略し、その編成のために編曲を委嘱したようだ。コロナのため舞台面の人数が20名迄という制約に合わせたためだという。いつになったら自由になるのだろうと思うが、制約に合わせて編曲してでも演奏したいという熱意に打たれる。
その編曲の為か、管がいないことによるのかわからないが、演奏が始まった時前日とは全く違う印象だったのには驚いた。バッハにはマニフィカートが2曲あったか、と思ったぐらいだがそういう訳ではなかったらしい。曲の中身をつぶさに覚えているわけではないので演奏後に調べて同じ曲だという事が解った次第。演奏の解釈によってかくも印象が変わるのかと改めて驚いたし、バッハの曲はジャズでも演奏できるような普遍性があるので解釈次第で全く異なる印象になるのかもしれない。
後半のヘンデルは「Dixit Dominus」で詩篇の曲。荘重な印象のバッハに対し華麗な印象のヘンデルという対比が面白かった。しかも最終曲がどちらも「Gloria Patri…」という同じ歌詞で、二人の曲付の違いが浮き彫りにされるという趣向。選曲の妙もあって実に興味深かった。
木造の音楽堂なので最近の演奏会場のような響きはない。昔の演奏家がこのホールを響かせるのは難しかったかもしれないが、現代の人達には木造ならではの響きすぎない柔らかさが丁度良い感じ。
出演は、指揮 大門康彦、S 岡戸仙子、生駒圭子、北川智子、樫木伴実、MS 室岡里菜、古市尚子、T 辻端幹彦、石川和樹、B 岡戸淳、生駒文昭、中村隆太、弦楽器 横浜バロック室内合奏団、チェンバロ・オルガン(電子ピアノ) 中山育美の皆さん。
いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。