【2022年12月25日渋谷区文化総合センター大和田さくらホール】混声合唱団鈴優会の第32回定期演奏会を聴いた。鈴優会は30年前に名島さんが自らチラシを配って仲間を集め創立した団体だという。最初は立教大学混声合唱団鈴優会だったそうだ。つまり学生の時に創立した合唱団が指揮者の卒業とともに大学から離れて一般合唱団として活動を始めたということらしい。普通は大学の合唱団はそのまま学生団体として残り、卒業生はOBOG会として活動するのだが、このような経緯の混声合唱団はほかに例を知らない。
指揮者の名島啓太さんは高校生の時から合唱指揮をしていたというから、天性の合唱指揮者だったのだろう。しかし私がその存在を知ったのは合唱指揮者協会がまとめた「リーダーシャッツ」の編者として名前があった時だった。失礼ながら全く知らなかったので関西方面の方かと思っていたくらいだ。初めてその指揮する演奏会を聴いたのは2016年の鈴優会第26回定期演奏会だった。その後「名島啓太とみんなの30年」という記念碑的演奏会があり、北区民混声合唱団の定期演奏会も聴いた。その音作りには何か独特のものがあるように感じていたが、今回委嘱作品作曲者の松本望さんのコメントでなるほどと思った。柔らかなハーモニーに特色があるのだ。
今回の演奏会でもそれは存分に発揮されていて、その柔らかなハーモニーが何とも心地よく、いつの間にか陶然として曲を聴くというよりもハーモニーにゆったりと浸っている感じだった。
演奏会は2020年制定の団歌「鈴の音のハーモニー」から始まった。これは名島さんの曲だが指揮はせず、団内指揮者による演奏。そして名島さんが登場して佐藤敏直さんの「旅の途の風に」。この第3曲が名島さんが高校生の時に初めて指揮した曲だという。当時はかなりの人気曲だったというが30年前というと私が一番合唱から離れていたころなので残念ながら全く知らなかった。曲の変化も大きくなかなか大変そうな曲だと思ったが、当時の高校生が歌っていたというのは驚きだ。
2ステは「平和への祈り」と題してNickelとJenkinsの作品から平和に関する曲を抜き出して3曲の演奏。ラテン語と英語の作品だが言葉よりもハーモニーの美しさにうっとりしていた。
3ステが今回のメインと言えるだろう。松本望さんへの委嘱作品で「花と森と人と」という2部構成4曲の組曲。長田弘さんの詩による作品で「死」というものを深く見つめた曲。2曲目に「十歳で死んだ/人生で最初の友人は、/いまでも十歳のままだ。」という言葉が刺さった。小学校に入学したとき出席番号がすぐ前の友達が半年もしないうちに死んだことを思いだした。家も一番近く帰り道は一緒だった覚えがあるし、家にも上がり込んで遊んだ記憶がある。もう60年以上も前の事で顔も思い出せないのだが、母子家庭で母親と二人だった。今思えば職人の父親が亡くなって極貧の中にあったのかもしれない。死因は栄養失調だった。この友人は今でも6歳のままだ。しかし私が思い出さなければ誰が彼の事を覚えているだろうか、と思いながらこの曲を聴いていて切なくなった。
最後のステージはクリスマスの演奏会ということでクリスマスの曲を集めた。ヴィクトリアの「O magnum mysterium」に始まり、讃美歌の「荒野の果てに」、ジングルベル、赤鼻のトナカイと扮装も加わりだんだん気分も盛り上がる。山下達郎の「クリスマス・イブ」小林亜星作曲の「あわてんぼうのサンタクロース」と続いて最後はカップクの良いメンバーがサンタ姿で登場して終演。アンコールにはジョン・レノンとオノ・ヨーコによる「ハッピー・クリスマス」。サブタイトルが「War is Over」というこの曲には欧州での戦争が早く終わってほしいというメッセージが込められていた。今人類は戦争などやっている場合ではない大きな課題を突き付けられているのに、という名島さんのコメントには改めて皆が関心を持たねばならないことだと思わされた。
指揮は名島啓太さん、ピアノは岩井智宏さん。メンバーは女声14人男声12人でマスクはしている人とはずしている人が混在。
いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。