いそべとし男声合唱団2022年演奏会(いきっつぁんの演奏会探訪)

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【2022年11月13日ティアラこうとう大ホール】いそべとし男声合唱団の演奏会を聴いた。この合唱団は前から知ってはいたが演奏会を聴くのは初めてだった。ご他聞に漏れずコロナ禍のために2度にわたって中止された演奏会だった。2020年に予定されていたのは須賀敬一さんの卒寿記念演奏会だったという。須賀さんは豊中混声合唱団を率いて全国コンクール金賞10回の実績を誇る名指揮者。この合唱団は1997年から指導してきたという。団名となっている「いそべとし」=磯部俶さんが亡くなったのは1998年のことで、磯辺さんの要請を受けて忠実に職務を果たしてこられたということだろう。なくなってから24年間もなおその名を冠した合唱団が活動しているというのは、外国の例は別としてほかに聞いたことがない。さすがにご本人を知らない世代はなかなか新たに入りにくいと見えて、高齢化は避けられない。しかし変な力みが取れて不思議な柔らかいハーモニーが持ち味となっている。

磯部さんの作品としては「遥かな友に」があまりにも有名で、あとはほとんど知らなかったのだが、プログラム末尾の曲集の数を見て驚いた。組曲が13、曲集が12もある。現代の多作の作曲家と比べれば寡作かもしれないが、もうめったに演奏されない曲ばかりのようだ。しかしそんな埋れかけた曲を掘り起こして演奏し続けて来たのがこの合唱団という訳だろう。今回も半分が磯部作品だった。

1ステは須賀さんが傾倒してやまない高田三郎さんの「確かなものを」。ところが直前のアナウンスで指揮者が交代するとのこと。須賀さんが指揮する筈だったので何かあったかと心配してざわついた。変わったのは今回の3ステの指揮を予定していた横田清文さん。初めて聴く名前だったが拠点は関西で活動している方という。高田さんの曲は「水のいのち」と「心の四季」のどれかによく似た感じだったが、この曲は初めて聴いたかもしれない。

2ステは磯部さんの子供の曲を集め、団員から2人が交代で指揮を務めた。昔「ろばの会」という新作童謡をつくるグループがあったが、プログラムノートにそのエピソードが語られていて興味深かった。

3ステは木下牧子さんの曲集「愛する歌」からの6曲。親しみやすい軽快な曲が多く楽しんで聞いた。

4ステは再び磯部さんの曲で抒情的な作品5曲を集めた。しっとりとした感じの曲が多くゆったりとして気分で聴いていた。

そしてアンコールとなって須賀さんが車いすで登場、大きな拍手で迎えられ、磯部さんの「ふるさと」、最後には「遥かな友に」で終演。昔は合唱人では知らない人はいないという曲だったが、今はさほどでもないらしい。早稲田のグリークラブが合宿中、夜騒いでなかなか寝付かないのを案じた役員からの依頼でほとんど即興で書かれたという伝説の曲だが、その時歌ったパートリーダーがこの団にはまだ在籍している、というのもすごい。学生時代に部室にあった楽譜の作詞者には津久井青根と書かれていたのを覚えている。磯部さんの自伝によると出版社のものがたずねてきて覆面作詩者の正体を問われて「家の2階にいるよ」と答えたという。やがて磯部本人だということがばれてそれ以降は作詞作曲として記載されるようになった。50周年を記念して津久井湖畔に歌碑がある。後に混声版女声版も出来て、大いに広がったのだがいつまでも歌い続けたい名曲だと思う。

今回は大阪メールクワイヤーから15名ほどが賛助出演。総勢36名の歌声での温かい、なつかしい感じのする演奏会だった。

いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。