雪が降るとあたたかい – 信州の言葉の秘密(Echotamaのブログ)

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今日は春分の日過ぎの雪ということもあり、東京の皆さんは「寒いー!」とおっしゃいます。しかし私のふるさと(信州の一部)では「今日は雪だから寒くないね」とか、「今日はあったかいね」などと言うのです。

冬型の気圧配置になって日本海側が大雪になると、私のふるさとまで雪雲がやってきて雪が降ります。このときの気温はマイナス3~4℃くらい。この程度では「寒くない」のです。しかし季節風が弱まりだして雪雲が引っ込み、空が晴れると、放射冷却現象でマイナス10℃。これが一番寒いときです(北海道あたりとは比べ物になりませんが)。今日のような南岸低気圧による雪のときなどは0℃ぐらいですから「あったかい」のです。

ちなみに南岸低気圧による湿った重い雪のことは「カミユキ」と言います。「今日はカミユキだからあったかい」と言うわけです。一方、冬型の気圧配置のときはいつも雪ですが、積もるのは新潟県境と山間地だけで、谷底の我が実家のあたりは軽い粉雪が舞ってたいして積もりません。乾いて溶けない粉雪なので竹ぼうきで雪を「掃き」ます。粉状なのできちんと掃いておかないと雪が残って滑るからです。よく滑るのでスキー場ではパウダースノーは大歓迎ですが、自転車通学の時には何回餌食になったか数えきれず……。くっつかないので雪合戦や雪だるまには向きません。

星が瞬く晴れた夜は底冷えします。翌朝は「今朝はカンジタ」と言います。東京の人が聞いたら誤解を招くかも。語源はわかりません。「感じた」は標準語と同じ言葉も存在していますが、仮に「寒さを感じた」と言うとすればアクセントは「低高高高」(標準語と同じ)なのに、「カンジタ」は「高低低低」で、寒かったときにしか使いません。同じ地域でも「今朝はシミタ」と言う人もいます。東京では「シミタ」は使われていませんが、「凍み豆腐」という言葉が一般的にあるので、「凍みた」は広範囲に通じる和語のように思います。私のふるさとでは同じ町でも「カンジタ」と「シミタ」は併存していて、隣同士でも人によって使われる言葉が違うというバルカン半島状態です。おそらく基層原語の上に何派にもわたって多言語の流入があり、その重層的構造がこのような事態を生み出しているのではないかと想像します。たぶん「カンジタ」が基層原語で「シミタ」が大和方面から伝わってきた和語ではないでしょうか。

たった一つの言葉に関しても、同じ信州でも地域や標高などで言葉は変わり、かつ重層的に存在しているのです。わずか20kmしか離れていない長野市中心部や、雪があまり降らない上田市あたりでは全く違う言葉が話されているかもしれません。どうやら信州は何派にも分かれて流入した民族の吹き溜まりのようです。

後日記:「カンジタ」は「寒じた」ではないかというご指摘をいただきました。調べてみたところ、確かに文語で「寒ずる」がありました。泉鏡花の小説にも出てくるので、少なくとも明治時代に泉鏡花の出身地である金沢では使われていたようです。かなり広がりを持ったことばのように思います。何にせよ、古いルーツを持った言葉のようですね。ただ、この場合の「カン」は漢語で、和語ではないので、基層原語かといえば疑問が残ります。どのようにして信州に流入したのか、解明する必要がありそうです。

後日記2:長野県下伊那郡ご出身の方から、「僕の田舎の下伊那郡では『今朝はシミがあって水道管が破裂した!』となります」という情報をいただきました。おそらく「シミ」は「凍みる」と同じルーツですね。「凍みる」はIME変換でも出ますし、私のふるさとでも「今朝はシミがあって」も通じると思います。下伊那郡とは同じ長野県内といっても150kmは離れていますし、こちらも広がりを持った古い言葉のようですね。昔は東山道が神坂峠(木曽山脈南部の岐阜県中津川市長野県下伊那郡阿智村の間にある標高1,569 m)から下伊那郡→諏訪→和田峠→上田と通じていましたから、やはり「シミ」は大和方面から伝わってきたような気がします。