東京混声合唱団第261回定期演奏会(いきっつぁんの演奏会探訪)

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【2023年3月5日杉並公会堂】東京混声合唱団の第261回定期演奏会を聴いた。

東京混声合唱団を初めて聴いたのは多分大学1年の時なのですでに50年以上前だ。当時の定演はまだ二けたで、少し後に第66回定期というのが6月6日にあって「ロクロク定期」と言われていたことは良く覚えている。今回は東混には珍しく杉並公会堂大ホールでの演奏会。少なくとも私は東混をこのホールで聴くのは初めて。しかも指揮者が広上淳一さんと聞いて、これはぜひにも聞いておかなければと思った。広上さんは関西での活躍が多くなかなか東京でその指揮を見る機会はなかったし、まして東混を振るというのもまれな組み合わせ。ご本人曰く合唱を指揮するのは高校生以来とか。いやそんなことはあるまい、同志社のOB団体などで結構大曲の指揮をしてこられたはず、と思ったがきっとご本人はあれはオケを指揮していたので合唱指揮ではない、という感覚だったのだろう。確かに今回はアカペラ合唱曲もあったからそれは久しぶりの事だったというのもうなづける。

まず驚いたのは広上さんが意外に小さい方だったこと。トークに出て来たほかの方より頭一つくらい背が低く、巨匠=大柄な人という思い込みを打ち砕かれた。

そんなことはさておき、最近の東混はいろいろな合唱指揮者や異分野の指揮者を迎えて新機軸を模索しているようだ。その一環でもあっただろうが、この組み合わせは良い結果を生んだ。

プログラムの構成は最初の広上さんのトークで明らかになった。前半後半にそれぞれ尾高惇忠さんの曲が置かれているのだが、広上さんの師匠に当る方。往年の指揮者尾高尚忠さんを父にもち弟は尾高忠明さんだ。惜しくも2021年に亡くなられた。その尾高さんの曲を中心に展開する。

まず1ステでは尾高惇忠さんの「光の中」。初めて聴く曲だが静岡の焼津市文化センター開館十周年記念の曲という。壮大な叙事詩のような内容で雪解けから光に満ちた春に緑が再生していく様をうたった詩だ。ところが歌いだしの「大地を覆う雪は解け」という言葉がなにを言っているのかわからず、ついプログラムの歌詞を確認してしまった。「O,O,O」とオ音が続くので「え?」となったわけ。日本語は難しい。

2ステは三善晃さんの「五つの童画」。東混でこの曲を聴くのは何十年ぶりだろうか。昔は東混以外で出来るところはないだろうと思っていたが最近はハイレベルのアマチュア合唱団がよく取り上げるようになっている。隔世の感とはこのことだ。しかし初めて東混でこの曲を聴いた時の衝撃は既に薄れていて、東混の合唱もかなり洗練された感じの歌い方になったような気がした。なぜ三善さんなのかは聞いてわかった。尾高惇忠さんの師匠でもあったということだ。つまり前半は日本に於ける師弟関係を並べることで尾高惇忠という人の来歴を表現したかったのだ。

そして後半はフランス留学時代の師、デュルフレのアカペラ作品「グレゴリオ聖歌による4つのモテット」。教会的な美しい和音で構成された宗教曲。デュルフレといえばフォーレと並ぶフランス音楽のレクイエム作者として知っているが、この曲も恐らく聞くのは初めて。東混の美しいハーモニーが気持ちよかった。

4ステは尾高さんの「春の岬にて」という曲集。優しい歌声に癒される気分であった。

50年前に初めて聴いた時の東混メンバーはもう一人も残っていない。当然そのハーモニーもかなり変わっていて昔の東混がなつかしく思うこともあった。しかし時代の変化に伴って方向性も合唱音楽の潮流も変わってきているから、変わっていくのが当然ともいえる。広上さんもそんな今の東混の良いところを存分に引き出して気持ちの良い演奏会にしてくださったと思う。

今回ピアノを担当した野田さんは尾高惇忠さんの最後の弟子だったらしい。広上・野田の弟子コンビが師匠の楽曲を中心に組み立てた見事な演奏会だったという訳。そういう意味のある構成の演奏会は私は大好きだ。一見脈絡が無く見えても聞いてみると奥深い関係性があるという。よく考えられた演奏会は聞いたものに残すことも大きい。最後まで拍手が中々きれなかったのも聴衆が満足した表れだと思った。

指揮は広上淳一さん、ピアノは野田清隆さん。

いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。


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