舞台ドイツ語(Echotamaのブログ)

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 慶應ワグネルのドイツ語の発音は「舞台ドイツ語」に準拠しています。これは、方言が多いドイツ語圏で、歌や演劇の世界で標準的かつ明瞭に通じる発音を確立すべく制定されたものです。他の言語においても、日常語の発音と舞台発音は異なるものとして理解されています。

 私が現役の頃には代々コピーされてきた手書きの冊子があり、「別室」での練習で叩き込まれたものでした。

ドイツ語音韻論 – Wikipedia

 口語のドイツ語と最も大きく異なるのは”R”の発音です。まず、語頭・語中の”R”は、口語では喉の奥のほうでゴロっと鳴らして発音しますが、舞台ドイツ語では前歯の後ろから硬口蓋にかけての辺りで明確に巻き舌をします。また、語尾の”-r”は、口語では英語のように母音化しますが、舞台ドイツ語ではこれも明確に巻き舌で発音します。

 しかしながら最近では、日常時はもちろん、舞台でも舞台ドイツ語を使わなくなっているようで、特に語尾の”-r”の母音化は当たり前になっているようです。

 既に二十数年前の大学生のとき、二期会のオペラ「タンホイザー」に出演した際でも、他の芸大・音大卒と思われる出演者の方々に「語尾の”-r”を発音するのはおかしい。ドイツのオペラハウスではそのような発音はしていない」と指摘され困惑した記憶があります。フィッシャー=ディースカウだって舞台ドイツ語を使っているのに何故おかしいのか、と心の中では思いつつも、明確な反論も出来ず、だからといって叩き込まれた”-r”の発音をしないのも気持ち悪くて、悶々としていました。

 その後、30歳になる少し前にドイツを旅行する機会があり、たまたま飛行機の席で隣に座った自称ジャーナリストのミヒャエルさんと片言のドイツ語で話をした時にも、「あなたは随分古い話し方をする」と笑われてしまいました。「合唱や歌曲が趣味だ」と言ったら、にわかに納得していました。オーストリア航空のキャビンアテンダントにも「あなたはとても美しいドイツ語を話す」と言われましたが、顔は一所懸命笑いをこらえていました。現代のドイツ語話者には、舞台ドイツ語は古めかしくて、ましてや日本人が使うなどとというのはずいぶん滑稽に聞こえるのでしょう。

 先日、NHK-FM放送でドイツのツヴィッカウ歌劇場で活躍中のワグネルの後輩、谷口伸君のマーラー『さすらう若人の歌』を聴いたのですが、彼もワグネルで徹底的に舞台ドイツ語を叩き込まれたはずですが、語尾の”-r”を母音化して歌っていました。やはり声楽家の世界でも、既に昨今では舞台ドイツ語は使われなくなっているのでしょうね。

2022年付記:谷口伸君は2018年からドイツ・テューリンゲン州マイニンゲン国立劇場などで大活躍中です。



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