これからの5G/IoT時代(Echotamaのブログ)

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通信業界の話題で失礼します。ちょっと時間が経ってしまいましたが、NTT持株がNTTドコモをTOBにより完全子会社化すると発表した後、他の会社が黙っていないだろうとは思っていたのですが、11月11日に28社連名による「意見申出書」が総務大臣に提出されました。読んでみて、変な言い方ですが、とてもがっかりしました。率直に言ってレベルが低すぎます。私が仮にKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの人間だったら、こんな文書は書きません。(以下、カッコ内は全て「意見申出書」の引用)

第一に「これからの5G/IoT時代は」と書き始めていながら「光ファイバや線路敷設基盤等のボトルネック設備」や「NTT東・西が公社時代から承継した全国津々浦々の局舎」が「エッジコンピューティングの普及により、その戦略的価値が電話時代よりもむしろ高まっていきます」となっていますが、実態はその逆じゃないですか。5Gでは基地局回線を光ファイバからローカル5Gに切り替えても大容量通信が可能になってしまうのです。光ファイバや局舎はもうボトルネックではなくなります。現にアメリカのベライゾンは、端末側の基地局回線をミリ波のローカル5Gで構築しています。アメリカはもともと光ファイバが少ないので、4Gをむりやり同軸ケーブルの低速の基地局に載せていたから、T-Mobileのように低速のままでもソフトウェア変更で5Gだと言い張るか、ベライゾンのように新たにローカル5Gで構築するか、どちらかしかなかったのですね。だから北米向けのiPhoneだけはベライゾン対応のため仕方なくミリ波対応になっているわけです(でも5G-NSAの「なんちゃって5G」ですから速度は出ません。iPhoneが北米だけミリ波対応だったことを「謎」とか書いてるライターさん、よくそれで原稿料もらえますね)。もうボトルネックではないはずの光ファイバや局舎を「不可欠な要素として益々厳格な運用が求められる」と主張する理由は、4Gからの移行の容易さとコスト面の理由でしかありません。正直に言ってくださいよ。むしろ端末側の光ファイバの基地局回線がどんどん不要になっていくかもしれないことに危機感を覚えなくてはならないのはNTT東・西のほうかもしれません(私が勤めている会社ですが…)。せめて減価償却が終わるまでは使ってもらわないと……。

そして「エッジコンピューティングの普及により」ネットワークはより携帯端末に近づいていき、携帯電話会社の加入者情報・位置情報も開放されて、主役の重心はそれらを操る仮想的携帯電話会社・ソフトウェア会社・コンテンツ会社へと傾いていきます。そして携帯電話会社は、それらを超えるソフトウェア・コンテンツがない限り、基地局のみを持つ存在へとどんどん切り詰められていきます。したがって、主張すべきはソフトウェア・コンテンツの競争が阻害されるか否かです。それでもNTTドコモが完全子会社となることによって「競争事業者が実質的に排除される」のでしょうか。「競争事業者」を通信会社のみに矮小化した主張になっているとしか思えません。

第二に「公正競争上の問題を引き起こし、競争事業者が実質的に排除される」という「公正競争」のマーケットは、申出書のどこを読んでも国内マーケット、しかも日本の通信事業者のみの世界に閉じているとしか考えられません。もともとKDDの国際資源を引き継いだKDDI、米国スプリントを買収してコケたソフトバンク、世界中にeコマースの網をひろげようとしている楽天、いずれもNTTグループが邪魔をしているわけでもなく、現に世界中にどんどん進出しているではないですか。逆に外国から日本にも、ソフトウェア・コンテンツ会社は、いわゆるGAFAはもちろんのこと、IBMなどのメーカー系、オラクルやSAPなどのSaaS,ERP系など、すでに数えきれないほど入ってきていて、大手は純国産会社を探す方が難しいほどです。「これからの5G/IoT時代は」これらの世界中の通信会社・ソフトウェア会社・コンテンツ会社の中での競争になることは、KDDIさん、ソフトバンクさん、楽天モバイルさんも、よくよくご存じのはずではないのですか?いつ誰が携帯電話会社さんたちのネットワークのど真ん中につながせろと言ってくるかわからないし、どの会社もそれだけの力が十分にあるのですよ。「競争事業者が実質的に排除される」どころの話ではありません。わかっていて、あえてしらばっくれてこんな文章を書いている、なんてマネはしていないですよね。まさか。

この「意見申出書」を書いた各社の経営企画の一部の方(こういう文書を書く、いわゆるパブコメ屋さん)の頭の中は、たぶん電電公社が民営化してNTTになった1985年(35年前!)から変わっておらず、蜘蛛の巣がかかっているのではないでしょうか(ちょっと言いすぎかな)。私が読んでまず感じたのは、昔と変わっていないな、というデジャヴ感です。それは仕方がないとしても、KDDIの高橋誠社長(個人的にもよく存じ上げていてとても良い方なのですが)、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、楽天の三木谷会長兼社長は、この「意見申出書」を読んだのでしょうか。もしも本気だとしたら、日本の通信業界の「これからの5G/IoT時代は」あまりにも暗いとしか言いようがありません。

ちなみに「意見申出書」全文はこちらhttps://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2020/11/11/pdf/press_201111.pdf

わかりやすく言うと、こんな申出書の議論をしてる間に、グーグルがソフトバンクに、アマゾンが楽天モバイルに、HLR/HSS(加入者管理情報・位置情報)に接続させろと言ってきたら、孫さんや三木谷さんはどうするの?ということですよ。戦い方、戦う相手、どっちも間違えていませんかね。黒船が来てから初めて慌てるのでしょう。官民そろって日本は江戸時代から変わっていないのかもしれません。たぶんKDDIはプライドが高い旧KDD(攘夷派)と米国通商代表部の怖さを知っているトヨタ勢(開国派)が内輪もめしたあげく旧DDIが全面降伏。ソフトバンクは投資の方が重要なんだけど投資の担保にしている通信を手放すわけにいかず難癖付けて逃げ回ったあげく国に泣きつく。楽天は戦っても勝負にならずモバイルを租借されてそのうち全土が植民地に。さて、NTTは?

通信は軍事と共に発展してきた歴史があります。IT時代の現代は尚更です。米国が中国ファーウェイ製品を締め出したのを見ても明らかです。このままでは日本の安全保障は危ないです。料金が高いとかどうとか言う以前に、国防の視点が抜けています。

すでに中国の頭脳は日本のはるか先を見ています。日本はサイバーセキュリティ戦略副本部長だった某元大臣がパソコンを使ったこともなく、官僚に答弁させて世界中の笑い者になりました。デジタル庁もハンコがどうこうなどと議論しています。そういう議員を選良として国家を任せているのは日本国民そのものです。「日本は民度が高い」などと言った某氏もいますが、危機感が全く足りません。

その選良たちを選んでいるのが自分たち自身だと思うと情けないのです。自分にもまだまだやらなければならないことがあると思えて仕方ありません。何とかしなければ日本が危ういのです。