「バルト三国・リトアニアの歌-ユリユス・カルツァス作品展-」(いきっつぁんの演奏会探訪)

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【2022年11月19日小金井宮地楽器ホール大ホール】新型コロナウイルス感染症が拡大する直前最後にオンステした演奏会は、2020年3月8日、府中バルトホールで開催された「バルトの夕べ」だった。来場を自粛された方もあって客席は寂しかったが、主催のBaltuと日本ラトビア音楽は協会合唱団ガイスマと、女声合唱団のコーラス・インフィニによるバルト三国の合唱による演奏会だった。実はバルトホールの「バルト」は独逸語のWald(森)だったらしいのだが、日本語の表記は同じなのでバルト「Bald」三国の音楽を聴くのにふさわしい会場として使われたらしい。

さてその時のコーラス・インフィニはリトアニアの作曲家に委嘱した新作の一部を披露し、その年の4月に全曲初演のコンサートを予定していた。ところがコロナのために延期を余儀なくされ、作曲家自らの指揮による初演へのこだわりもあって、2年半経過した昨日、漸く全曲演奏にこぎつけた。

しかも全曲その作曲家による作品による演奏会という稀に見るような企画として実現した。

その作曲家はリトアニアのユリユス・カルツァス氏。この合唱団は国立音楽大学付属高校のOGが中心となっていて、その高校音楽部がリトアニア・ポーランド演奏旅行の際にカルツァス氏と出会って以来のご縁なのだという。そのエピソードがプログラムノートに書かれていて思わず涙ぐんでしまった。それ以来13年余りにわたる親交の果実が今回の演奏会だったという訳だった。

第1部ではカルツァス氏と出会って以来、この合唱団のために書かれた曲を中心に5曲(うち2曲は編曲)が披露された。20名ほどのメンバーだがさすがに音高出だけあってよく整ったハーモニーで声量も豊かで聴きごたえのある女声合唱だった。第2部は合唱団のアドヴァイザーでもある荒木泰俊氏によるバリトンソロで、氏の歌曲集「夏の夜」の5曲。言語はドイツ語だった。蛇足ながら荒木さんのバリトンソロにはなんとなく既視感があったのだが、調べてみてもわからなかった。10年以上前に聴いていたのかもしれない。

そして休憩をはさんで、3年越しに実現した新作初演を作曲者自らが指揮しての演奏。「Il Cantico del Sole(太陽の賛歌)」はアッシジの聖フランチェスコの詩による10曲の組曲。衣装替えして出て来た姿を見て、あの聖フランチェスコ教会でレクイエム・プロジェクトが上田益さんのMissa Brevisを初演した時のことを思い浮かべていた。聖フランチェスコはある時発願してそれまでに得たすべてを投げ捨て、素っ裸になって信仰生活に入った。蓆をかぶって荒縄で縛っただけの姿で信仰を説いて回り、動物や鳥たちとも会話したという伝説の聖人である。フランチェスコ会の聖職者は従って黒い貫頭衣をロープで縛っただけの質素な衣装を旨としている。そのスタイルを想像させるような黒い上下で右腰から足元までにストライプの入った衣装。それは縛っていた荒縄かロープを想定したデザインであろうと思った。曲はいろいろなスタイルで書かれていてどれも美しい。「病と苦難を耐え忍ぶ人々のために、平和な心で耐え忍ぶ人々は幸いです」と歌いはじめ、全能の神なる主を讃美して終わる。完成した度点では想定していなかった社会情勢の変化はあるが、今こそこの曲が歌われる時期が来たのではなかったか。その為の2年半の延期ではなかったかと考えると、この間の合唱団の労苦はあるべくして与えられたものであったかもしれない。

最後に番外として作曲家と合唱団を結び付けた記念碑的な作品、瑞慶覧尚子さんの3曲が演奏されて終演した。感慨深い演奏会だった。

【アンコール曲紹介】 『平和のたね』 (詞: 瑞慶覧尚子・伊藤皓一/曲: 瑞慶覧尚子) Cond.荒木泰俊 Pf.菊池大成 『ひとつぶの種子』 (詞:征矢泰子 /作曲: 瑞慶覧尚子) Cond.湯田佳寿美 Pf.横山紘子 『白いシクラメン』 (詞: 征矢泰子 /作曲: 瑞慶覧尚子) Cond.ユリユス・カルツァス Pf.菊池大成

出演は、1ステ指揮 湯田佳寿美、ピアノ 横山紘子、2ステ B 荒木泰俊、ピアノ 横山紘子、3ステ 指揮 ユリユス・カルツァス、ピアノ 菊池大成、Sソロ 太田史夏の皆さん。

いきっつぁんのプロフィール:早稲田大学卒業。在学中混声合唱団に所属。現在はレクイエム・プロジェクト東京いのりのとき合唱団、日本ラトビア音楽協会合唱団ガイスマに所属。