私の職場のビルに、時折ホームレスの方が雨露をしのぎに出現します。見慣れた顔で、私が転勤してきた3年前に既にいたので、ずいぶん前からいるのでしょう。見つけると、N課長がとんできて「今もいるよ!なんとかしてよ!!」と言ってくるので、声をかけにいくと、すぐに立ち去っていきます。
別に私の職場は外からお客様が来るわけではないし、誰かに迷惑をかけているわけではないと思うので、かわいそうなのですが、N課長のような方もいますし、雨が防げる場所には駐車禁止用のカラーコーンを置いてあります。N課長は「すぐ対策してくれた」と満足気ですが、私は内心「カラーコーンを少しずらすくらい簡単なことなので、できれば雨露しのいでくれよ」と実は思っているのです。
先月「メンタリスト」のDaiGo氏が「ホームレスの命はどうでもいい」と発言して炎上しました。調べてみると、約4割のホームレスが襲撃を受けた経験をしており、昨年も3月25日に岐阜市ホームレス襲撃殺人事件、11月16日には渋谷女性ホームレス死亡事件などが発生しており、1995年から2020年11月まで、少なくとも前述の2事件の被害者も含めて24人のホームレスが、少年や若者らによる襲撃で亡くなって(殺されて)います。加害少年たちは「ケラチョ(虫けらっちょ)狩り」「街の掃除」と嘯いており、人間の命を奪ったことに罪悪感を持っていません。DaiGo氏が特別ではないのです。これほど人権意識が希薄な層が生じることについては、ここで触れると長くなるので、別途考察が必要に思います。
2011年の森川すいめい氏らの研究では、ホームレスで精神疾患を有する者が62.5%存在すると推定しています。仮に当初は労働者として雇用されていて、福利厚生が整っていたとしても、精神疾患で3年も休務すれば解雇されてしまうでしょう。その後、障害者年金を受給できたとしても、1級(他人の介助がなくては生活できないレベル)でも月額81,427円、2級なら月額65,141円です。とても生活していけません。しかもホームレスの場合は長年行方不明のため住民票自体が削除されており、さらには戸籍すら抹消されているケースすらあります。こうなると裁判所へ戸籍復活の申し立て→市区町村窓口で住民票復活の手続きを経ないと年金の受給すらできません。法律の専門家でないとまず無理です。生活保護(ネットスラングの「ナマポ」)も同様で、住民票がないことには手続きできないのです。また、少し古い研究ですが、高鳥毛敏雄氏によれば平成16年の大阪のあいりん地区での結核有所見者は34.6%にのぼるそうです。このように心身、金銭共に追い詰められて生きている状態なのです。
少し話がそれますが、ホームレスの大半は男性です。女性は一部の高齢者しか見当たりません。何故か。それは性風俗産業が女性の「セーフティーネット」になってしまっているからです。彼女たちの大半(中には誇りを持って働いている女性もいると聞きます)は「体を売って」劣悪な環境で稼いで生きているのです。
オリンピックで金メダルと銅メダルを獲った卓球の水谷隼選手が、所属する木下グループから報奨金2000万円を受け取りました。水谷隼選手は、使い道について問われると「やっぱり医療事業の方やホームレスの方に寄付っていうのはずっと考えていたので、タイミングを見計らってすぐにでもやりたい」と即答したそうです。
日本国憲法第25条
第1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
障がい者にもっと適切な社会福祉がなされますように。そして、この憲法の枠からこぼれ落ちてしまった方たちに、どうか救いの手が伸べられますように。